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HImagination Gallery

徒然なるままに、思ったこと感じたこと考えたことを何とはなしに羅列していくものです。

愛臓詩篇

大好き。
貴女が大好き。
この気持ちがあれば、もう他には何もいらない。

その白い肌が好き。
その細い指が好き。
その紅い唇が好き。
貴女の全てが愛おしい。
貴女の教えてくれた「好き」が、私の全てを塗り潰してしまうほどに。

いつからだろう?
私は貴女が欲しくなった。
貴女の全てを、私はまだ知らない気がして。
私は貴女を愛しているのに、私が貴女のことを余りに知らない。
怖い。とても、とても怖い。
私は貴女を愛するに足るの?
こんなにも美しくて素晴らしい貴女を、私が愛する資格はあるの?

私は苦しんだ。
足掻いて、藻掻いて、無様に惨めに這いずって――私は気づいた。
《貴女が私に不釣り合いなほどに素晴らしい存在なら》
《私が貴女になれば――そうすれば、私はいつでも貴女と共に在れる》

その日から、私は貴女になろうとした。
まずは足の小指を。
次に薬指を。
中指を。
人差し指を。
親指を。
順番に一つずつ切り取って、貴女の食事に入れていく。
気づかれないようにミンチにした私の指は、日毎に貴女の血肉となって混ざり合う。
貴女が食事を口に運ぶ度に、私は悦びで身を震わせる。

これが、一つになっていく感覚。
これが、大好きな貴女の一部になっていく幸福。
こんな幸せな気持ちは、産まれて初めて……。

そんな幸せなある日。
貴女は、もう私のモノじゃない私の足に気づく。
私は車椅子で、太ももから先は貴女にあげてしまっていた。
どうしたの、と泣いて私に抱きつく貴女をたまらなく愛しく思いながら。
私は大好きな貴女に笑顔になってほしくて。
《大丈夫です――これは、幸せな痛みだから》
《私はもっと幸福になるために、きっと身を削るでしょう》
《だからもし、私が耐えられずに死んでしまったら――》
《私を、食べてください》

貴女の涙は止まった。
でも、きっとそれは幸福によってではない。
私には解る。解ってしまう。
貴女を誰よりも見てきたのは、私だから。
貴女は私を理解できないような目で見た。
そんな目を、私はさせてしまった。
だから私は、とても哀しくて、辛くて、そして罪深い存在で。
私が貴女を食べることにした。


大好き。
貴女が大好き。
この気持ちがあれば、もう他には何もいらない。

……たとえこの身が、悪と血と罪に穢されようと。
私は知ってしまった。
誰かを愛する哀しみを。
誰かを愛する苦しみを。
誰かを愛する――悦びを。

その白い肌が好き。
その細い指が好き。
その紅い唇が好き。
貴女の全てが愛おしくて。

その白い肌を裂き。
その細い指を折り。
その紅い唇を噛み。
貴女の全てを貪り食らう。

(ノイズの中)
(嫌)
(痛)
(悪)
(殺)
(呪)
(嫌)
(嫌)
(嫌)
(嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌)

全てが終わった後。
私は食べ残しも、吸い残しも出さないよう部屋を綺麗にする。
貴女と完全に一つになれるように。
貴女をもう二度と離さないように。


それから、どれくらい経ったのだろう?
私は唐突に、猛烈な腹痛に襲われた。
苦しむ最中、私の視界に映ったのは、小さな人間の頭と、穴が空いた私の腹。
……私は幸せ。
《やっと……やっと産まれた……! 私と貴女の、子供……!》
幸福と血液に溺れながら、涙する歪んだ私の顔を。
その子は、虚ろな空洞でじっと見つめていた。



"Lovers Meet as Meat"
2016/6/14
Presented by HImagine